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前橋地方裁判所 昭和61年(行ウ)1号 判決 1990年4月19日

原告 宮崎常雄

原告 坂田政幸

原告 黒岩美喜

右三名訴訟代理人弁護士 五十嵐敬喜

同 日置雅晴

同 堀敏明

同 須網隆夫

被告 草津町長 山本巌

右訴訟代理人弁護士 内田武

同 清水淳雄

右訴訟復代理人弁護士 田島義康

右被告指定代理人 佐藤保

同 細井義男

同 高原稔

同 浅香勝

同 山口喜好

同 富沢道夫

同 中沢幸丸

同 内嶋頼昭

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、山本恵造に対してなした昭和五九年一二月二一日付温泉引用許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案に対する答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らはいずれも群馬県吾妻郡草津町の住民である。

2  草津町は、万代鉱温泉を所有・管理しているものであるところ、被告は、山本恵造(以下「山本」という。)がなした右万代鉱温泉引用の出願に対して、万代鉱温泉給湯臨時措置条例(以下「給湯条例」と略称する。)二条に基づき、昭和五九年一二月二一日付で温泉引用許可処分(以下「本件許可処分」という。)をなした。

3  しかしながら、本件許可処分は、次の理由から違法である。

(一) 給湯条例は、その三条において草津町温泉使用条例(昭和三九年四月一日条例第一四号、以下「使用条例」と略称する。)を準用し、同条例は、八条において引用許可基準を定めたうえ、その九条において、引用許可にあたって考慮すべき引用出願に対する調査事項として<1>「出願者の温泉利用施設が第三者に不利益を及ぼすことの有無」(三号)、<2>「出願者の温泉引用が本町の観光資源を損傷することの有無」(四号)を規定しているところ、前記山本による温泉引用許可出願は、かねてから同人が草津町において経営してきた「ホテル源泉」の跡地に地上一一階地下二階鉄骨鉄筋コンクリート造りホテル共同住宅(延床面積二万〇八五・七二平方メートル)の建物(以下「本件建物」という。)を建設し、同建物を温泉利用施設とすることを前提とするものであるが、右建物の建築がなされると、湯脈を切断し、温泉、特に、同建物に隣接する西の河原源泉を枯渇させる蓋然性が極めて高く、現在他の温泉から引湯している多くの第三者に不利益を及ぼすとともに、本件建物が建築される前記場所は、草津町の主要な観光資源である西の河原の入口部分の崖上であるうえ、同建物は高さが四〇・一四一メートルに達するものであるため、同建物の姿が西の河原地区のあらゆる場所から見えることになり、西の河原の景観を著しく損傷するものであるにもかかわらず、本件許可処分は、これらの点を看過してなされたものであり、裁量権を逸脱した違法なものである。

(二) 引用許可の出願にあたっては、万代鉱温泉給湯臨時措置条例施行規則(以下「給湯条例施行規則」と略称する。)二条に定める書類を添付すべきことが義務づけられているところ、本件計画施設は旅館であり、その営業にあたっては食品衛生法二一条の飲食店営業(旅館)の許可が必要であるから、山本の引用許可申請にあたっては、「その施設が許可を必要とするものについては、その許可証の写」の添付を定める給湯条例施行規則二条三号により飲食店営業(旅館)許可証の添付が必要であるにもかかわらず、同許可証は添付されておらず、従って、同許可証の添付がないままなされた本件許可処分は給湯条例施行規則二条に違反する違法なものである。

(三) 被告は、山本が使用条例八条一号に定める「草津町において旅館業を経営している者」であるとして本件許可処分をなしたものであるが、山本による本件許可の出願は、前記のとおり、本件建物を温泉利用施設とすることを前提とするものである。

ところが、本件建物は、温泉付リゾートマンションホテルとして山本と東急不動産株式会社(以下「東急」という。)及び伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠」という。)の共同事業により建設され、いわゆる等価交換方式により、右建物のうち浴場部分を含む客室等一一一三・四九平方メートルを山本が所有して旅館を経営するものの、他は分譲マンションとして販売されるものであり、してみると、本件許可処分は、山本の経営するホテル源泉に対する引用許可の形式をとってはいるものの、その実態は主として分譲マンション利用者に対する給湯のための温泉引用許可であることは明白である。このような分譲マンション形態に対する給湯のための温泉の引用は、使用条例八条一号ないし三号に該当しないことは明白であり、同条例八条四号に定める「以上の外温泉引用を必要とするもの」に該当しない限り、許可は許されないものであるところ、本件が右に該当しないことは明らかであるから、本件許可処分は、そもそも、出願名義のいかんにかかわらず、本来許可すべきでない温泉利用形態に対してなされたものであり、使用条例八条各号に規定する温泉引用許可の基準を満たさない違法なものである。

また、右に述べたとおり、本件許可処分は、実質的には分譲マンション利用者に対する給湯のための引用許可であるところ、右分譲マンションに関する共同事業は主として東急及び伊藤忠が中心となって行っていたものであるから、山本を単独の出願人とする本件許可処分にかかる出願は、実態と異なる名義をもってなされたものであり、給湯条例一二条に規定する虚偽の出願というべきであるから、取り消されるべきものである。

(四) 被告は、本件許可処分にあたって、引用許可の出願者である山本が給湯条例五条四項に定める「甲種の者」に該当するとして、給湯条例五条一項に基づく本件許可処分に伴う工事費分担金を一二一九万円と定めた。しかしながら、仮に本件許可処分が使用条例八条一号に違反しないとしても、本件建物の利用形態は、前記(三)のとおりであって、本件建物において本件許可にかかる温泉を主として利用するのは、「甲種の者」に該当しない東急ないし伊藤忠あるいはマンション所有者であるから、工事費分担金を「甲種の者」としてなされた本件許可処分は給湯条例五条四号に違反する違法なものである。

4  ちなみに、原告らは、本件許可処分と工事費分担金の徴収について、昭和六〇年一二月二日、草津町監査委員に対し、地方自治法二四二条に基づき監査請求をしたところ、同委員会は、右請求は理由がないとして棄却し、原告らに対して、同六一年一月二八日付書面でその旨通知した。

よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項二号に基づき、本件許可処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

本件万代鉱温泉の第一次温泉権は草津町及び国にあるところ、草津町は右源泉から湧出する湯を住民等に引用させるものであり、温泉の引用許可は、あたかも水道の水を配給するのと同様に湯の配給を認めるものにほかならず、いわば源泉から自然に湧出する湯の一定量の使用を許可するだけのことである。本件許可処分は、引用許可の出願者である山本に対して、源泉の持分を分与したものでも、本件許可処分にかかる湯を第三者に譲渡ないし分湯しうる権利を付与したものでもない。

従って、本件許可処分は、地方自治法二三八条一項四号にいう財産を処分したものに該当しないから、本件訴えは不適法であり却下されるべきである。

三  被告の本案前の主張に対する認否及び反論

1  被告の本案前の主張を争う。

2  温泉権が慣習法上の物権であり、地方自治法二三八条一項四号の「その他これに準ずる権利」に含まれることは明らかであるところ、本件許可処分は、万代鉱温泉の源泉権(湯口権)たる第一次温泉権を有する町が、出願者に温泉引用の許可を与えてその使用を許す一方(給湯条例二条)、右許可を受けた者から工事費用分担金(同条例五条)及び毎月の温泉使用料(同条例六条)の納付を受けることを内容としており、町が第一次温泉権の内容として当然含まれている分湯権ないし配湯権たる第二次温泉権を出願者に与え、あるいは温泉の使用を許可するものであるから、地方自治法二三八条の五所定の財産の「貸付」ないし「私権の設定」もしくは「貸付以外の方法により使用」の場合にあたり、同法二四二条一項に定める財産の管理・処分に該当するというべきである。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2(一)  請求原因3の冒頭部分は争う。

(二)  同3(一)の事実のうち、給湯条例が、その三条において使用条例を準用し、同条例八条が引用許可基準を定めていること、引用出願に対する調査事項として原告ら主張の同条例九条三号及び四号の定めがあることは認め、その余は否認する。

(三)  同3(二)の事実のうち、原告ら主張の給湯条例施行規則二条三号の定めがあること、ホテルの営業に際しては、食品衛生法上の許可が必要であることを認め、その余を否認する。

(四)  同3(三)の事実のうち、被告が、山本が使用条例八条一号に該当するとして、本件許可処分をなしたこと、山本が本件建物のうち浴場部分を含む客室等一一一三・四九平方メートルを所有することを認め、その余を否認する。

(五)  同3(四)の事実のうち、被告が、山本が給湯条例五条四項の「甲種のもの」に該当するとして、本件許可処分に伴う工事費分担金を一二一九万円と定めたことを認め、その余を否認する。

なお、甲種乙種の区別は、温泉引用許可処分の内容をなすものではない。甲種乙種の決定は、温泉引用許可処分とは別個に町長がなすものであり、別個の処分である。

3  請求原因4の事実は認める。

五  被告の主張

1  山本は、昭和四四年一二月二六日ころから、「ホテル源泉」の名称で旅館業を営んできたものであり、被告に対し、本件建物のうち一階部分一四室、一一一三・四九平方メートル、浴場面積二五八・四六平方メートルについて、昭和五九年一二月一四日付「温泉引用許可願」をもって万代鉱温泉の引用許可の出願を行ったものであるところ、被告は、右出願に対し、使用条例・給湯条例の諸規定に則り、慎重に審議した結果、本件許可処分をなしたものであって、以下のとおり、原告らが主張するような右諸規定に抵触するような違法はなく、本件許可処分は適法である。

2(一)  使用条例は、昭和三九年四月一日に施行されたものであるが、それまでは、西の河原源泉から四〇人、湯畑源泉及び白旗源泉から四二人、地蔵源泉から九人、煮川源泉から四人が、それぞれ引湯していたが、なかでも西の河原源泉においては、そこから引湯していた者が勝手に取入枡を設置して引湯し、温泉の湧出量が減少した場合には、勝手に取入枡を移動したり、温泉の湧出口を掘り起こすなど、無秩序な引湯や掘削が繰り返されたため、他の引湯者の湯量を減少させたり枯渇させるなど第三者に対して不利益を及ぼすとともに西の河原地区の観光的景観を損傷するところとなり、右条例制定にあたって、前記のような弊害を規制するために、同条例九条一項三号及び四号の規定が設けられたものである。

(二)  右条例制定の経緯からすれば、同条例九条一項三号の「温泉利用施設」とは、温泉を浴用等に利用するために設置する温泉取入口から浴槽等の温泉受給施設までの引湯管をいうものであるから、本件建物の建設による湯脈切断の可能性の有無は本件許可処分をするにあたって調査・考慮すべき事項ではなく、また、本件許可処分は万代鉱源泉についてのものであり、西の河原源泉からの新規の引用許可の出願にかかるものではないから、西の河原源泉の湯脈切断の可能性の有無は、全く関連性がない。

なお、草津町が本件許可をするにあたって調査を委託した財団法人中央温泉研究所の草津温泉第一次調査報告書においては、本件建物建設が温泉に及ぼす影響の有無が科学的かつ専門的に調査・検討され、同報告書は温泉に直接の影響を及ぼすことはないと結論づけている(ちなみに、本件建物の基礎工事が完了した時点においても、西の河原源泉の湯量が減少ないし枯渇した事実はない。)。

(三)  また、使用条例九条一項四号の規定は、前記の同条例制定の経過からして、西の河原源泉周辺に建設される建物等を対象にしているのではなく、同源泉自体を観光資源と把握し、引用許可出願者が引湯管等を設置するに際して温泉湧出口に柵や被いを設けるなどして観光資源としての価値を損傷することのないように配慮して定められたものであり、従って、同規定における「観光資源損傷の有無」は右趣旨に添って判断されるべきであるから、西の河原入口付近に建設される本件建物は右判断に際して問題とされるべきではない。

3(一)  山本は本件引用許可の出願にあたって、同人が経営していた前記旅館「ホテル源泉」の営業許可証の写しを添付したほか、本件建物の設計図書に基づいて中之条保健所長に対し、昭和五九年一二月一一日付「施設の構造設備基準照合依頼書」により、計画施設である本件建物が完成した場合旅館施設に適合する旨の照合依頼をし、同月一七日同所長から基準に適合している旨の「照合済書」を取得し、同書面を給湯条例施行規則二条三号所定の許可証の写しに代わるものとして添付した。

(二)  前記規定が許可証の写しの添付を要求している趣旨は申請者において真に旅館営業等を行うのか否かを確認するためであるところ、被告は、従来から引用許可申請にあたって右規定に定める許可証の写しの添付を常に要求する取扱いはしていないが、それは、本件引用許可の出願の場合のように、新たに温泉引用を必要とする事業を行う場合等で、しかも、右事業の計画段階では許可が受けられず、従って許可出願の段階で許可証の添付が不可能な場合には、右許可証に代わる他の書類等から判断しているからである。

そして、本件においては、他の手段たる前記「照合済証」により右の点を確認することができ、かつ被告は同書面により確認を行ったものである。

4(一)  温泉引用許可にかかる甲種乙種の区別は、これにより、温泉引用許可処分を受けた者が納入することとされている工事費分担金の額を決定するというものであるところ、右の決定は、当該温泉引用許可処分とは別個に町長が決定するものであって、温泉引用許可処分の内容をなすものではなく、温泉引用許可処分とは別個の処分である。

(二)  仮に、甲種乙種の決定が、温泉引用許可処分の内容をなすとしても、山本は、本件建物完成後、同建物の延床面積一万九二〇三平方メートルのうち、一一一三・四九平方メートルを所有し、その所有部分でのみ旅館を営業するものであるところ、その中に温泉引用許可の基本となるべき浴場部分を所有し、右浴場において温泉を使用するため本件引用許可の出願をなしたものであって、同人の所有しない分譲マンション部分に温泉を配湯する計画はない。従って、山本は給湯条例五条四項にいう「甲種の者」というべきである。

5  以上のとおりであるから、本件許可処分は、原告らが主張する使用条例等の法令に抵触する違法はなく、適法である。

第三証拠<省略>

理由

一  被告の本案前の主張について。

被告は、本件許可処分は、同法二四二条一項にいう「財産の処分」に該当しないから、本件訴えは、同法二四二条の二第一項に基づく住民訴訟として不適法である旨主張するので、判断する。

1  地方自治法二四二条の二第一項に規定する住民訴訟の制度は、普通地方公共団体の公金・財産等が、本来、住民の納付する租税その他の公課等の収入によって形成され、自治行政の経済的基礎をなすものであるところから、地方公共団体の執行機関又は職員による右公金・財産等の違法若しくは不当な支出、管理、処分行為を防止矯正し、もって公共の利益を擁護するために、特に、法律によって認められた制度である。右のような住民訴訟制度の目的に照らせば、その対象となるべき財産とは、住民の負担にかかる公租公課等によって形成された地方公共団体の公金及び営造物以外の財産を意味し、かつ、住民訴訟の対象となりうるのは、当該地方公共団体の財務会計上の事務の処理、すなわち、当該財産の財産的価値そのものの維持、保全または実現を直接の目的とし、したがって、その内容は当該財産の価値の維持、保全または実現にかかわり、かつ当該地方公共団体に財産的損害を発生させるおそれのある行為に限られると解すべきである。

2  そこで、本件許可処分が、住民訴訟の対象となり得るか否かについて、検討する。

(一)(1)  <証拠>によれば、次の事実が認められる。

草津町では古くから草津町温泉使用料条例により、議会の議決で引湯を許可していたところ、昭和三九年四月一日、使用条例を制定し、旧条例を廃止した。

使用条例は、第一条で「本条例の目的は、本町の管理する温泉を保護し、その濫用を防止し、利用の正常化を図り、且つ温泉の観光資源的性格を保全するにあるものとする。」と定めている。また同条例は、温泉引用許可の手続について、引用希望者は引用許可願を町長に提出すること(五条)、許可については町議会の議決を要すること(十条)、引用許可は文書ですること、出願者は許可書の交付を受ける際、許可手数料を町に納入すること(十二条)、引用許可を受けた者は同条例の定める温泉使用料を定期に町に納付すること(十五条)などを定めるほか、引用許可の基準を<1>草津町において旅館業を経営している者、<2>公共的施設にして温泉を必要とするもの、<3>草津町において五室以上の寮、アパート及び従業員宿舎を経営又は有している者で、温泉を必要と認める者、<4>以上のほか温泉引用を必要とするものとし(八条)、また引用権異動不能の原則として、「温泉引用の許可は、特定の者に対し、特定の条件によって町管理物件の使用を許可するものであり、引用権者において任意にこれを第三者に移転できないものとする。」(十四条)と規定している。

(2) 本件許可処分で問題となっている万代鉱温泉は、昭和四一年硫黄採取のため坑道掘削中に発見され、同四八年一二月二三日、草津町(以下「町」という。)が第一次温泉権者と確定したこと、源泉地地盤の所有者は国であり、白根国有林の一部である源泉地地盤(二万三一五三平方メートル)を町が温泉使用の目的で国から借り受け、引湯等に必要な設備を設置していること、以上の事実は争いがなく、右争いのない事実と、<証拠>によると、以下の事実が認められる。

万代鉱温泉の源泉権は草津町が七割、国が三割の比率で所有しているが、町は源泉権の取得のために金銭的負担をしたことはなく、財産目録にも源泉権を記載していない。

万代鉱温泉発見後、昭和四八年一二月三日、町は草津町温泉及び温水供給事業特別会計設置条例を制定し、地方自治法二〇九条二項により草津町温泉及び温水供給事業の円滑な運営とその経理の適正を図るため草津町温泉及び温水供給事業特別会計(以下「温泉温水会計」という。)を設置すること(一条)、この特別会計は、温泉及び温水供給事業収入をもってその歳入とし、同事業費をもってその歳出とすること(二条)を定めた。

町は、昭和四九年八月二九日、給湯条例を制定した。給湯条例は一条で「この条例は、本町が所有又は管理する温泉のうち、この条例施行の日以降において給湯する温泉について、必要な事項を定めることを目的とする」と定めている。また同条例は使用条例の五条から一四条までを準用し(三条)、温泉使用料を月毎に納付すべきとする(六条)ほか、工事費分担金の制度を定め、町は温泉供給事業費(建設費及び維持管理費の一部)に充てるため引用許可を受けた者から工事費分担金を徴収すること、工事費分担金の額は毎分給湯量に甲種の者は二三万円、その他の者(乙種の者)は四六万円を乗じた額とすること、甲種の者とは、個人にあっては、住民基本台帳法七条六号に定める日から三年を経過した者をいうこと、などを規定している(五条)。

従来、町議会は温泉引用許可の議案の審議にあたっては、土木委員会に付託する慣例であったが、万代鉱温泉からの引用については温泉温水対策特別委員会が担当することとなった。町は万代鉱温泉の熱を利用して加熱した温水を、町営水道のような配管を通じて町内の希望各戸に供給しており、温泉についても万代鉱温泉の源泉から給湯本管を引いて湯を町内に導き、右本管に引用許可を受けた者のパイプを接続させて湯を供給している。町が引用を許可した温泉の流量は平成元年九月現在で毎分約一万リットルであるが、万代鉱温泉はそのうちの約三三〇〇リットルを占めている。昭和六一年三月現在、温泉温水会計の収入額は約三億六〇〇〇万円であり、内約四割が温泉使用料である。

(二)  右認定の事実によれば、万代鉱温泉の発見により、草津町の温泉行政に大きな変化が齎されたこと、給湯条例の下における万代鉱温泉からの温泉引用許可は、温泉温水会計と密接な関連を有していることが認められる。しかしながら、温泉引用許可処分そのものは、町の所有又は管理する温泉の保護、濫用の防止、利用の正常化を図ることを直接の目的とする行政行為であり、それ自体としては非財務的な目的を持つものと解される。

また、前認定のとおり、引用許可に基づく引湯権を他人に譲渡することは禁じられているし、事実としても、町は万代鉱温泉の源泉から給湯本管を引いて湯を町内に導き、右本管に許可を受けた者のパイプを接続させ、一定量の湯を引かせるだけであるから、温泉引用許可の内容は、涌き出る湯そのものの使用であり、第二次温泉権の設定ないし譲渡ではないと認められる。そして、温泉の源泉から湧出する湯自体は、河川を流れる水と同様に、自然に湧出するものであり、かつ、放置すれば流出してしまうものであって、特定の財産として維持管理をなしうるものではないし、まして住民の負担にかかる公租公課等によって形成されたものとは、到底いいえないものである。従って、温泉引用許可処分の内容は財産の価値の維持、保全または実現にかかわるものではないといわなければならない。

更に、温泉は使用されない限り、涌き出て流れ去るだけのものであるから、その一定量の使用を許可する処分が、町に対して財産上の損害を及ぼすことも考えられない。

以上の次第で、温泉引用許可処分はその目的、内容、損害の発生いずれの見地からしても、町の財務会計上の事務の処理とはいえず、住民訴訟の対象とはなり得ないものである。

3(一)  ところで、前認定のとおり、町は、給湯条例の規定により温泉引用許可を受けた者から工事費分担金を徴収することとされているが、同条例五条四項にいうところの甲種の者と、右甲種の者以外の者である乙種の者とでは、右工事費分担金額が異なっているから、給湯条例に基づく温泉引用許可処分が、工事費分担金を甲種の者として納入すべきか、乙種の者として納入すべきかの決定をも内容とするものであるとすれば、本件許可処分は、住民訴訟の対象となる余地なしとしないとも考えられる。

(二)  そこで検討するに、<証拠>によれば、給湯条例に基づく温泉引用の許可は、町議会の議決を経ることとされているが、右議決の議案の内容となるのは、同条例の定める一定の基準を満たしたとされる特定の者に対して、出願にかかる特定の条件のもとでの温泉引用を許可をするかどうかに限られるものであり、他方、右許可にかかる工事費分担金を、甲種の者として納入すべきか、乙種の者として納入すべきかの決定は、温泉引用許可につき町議会の議決を経た後に、すなわち温泉引用許可処分がされた後に、被告が発する工事費分担金の納額告知書によってなされるものであることが認められる。従って、温泉引用許可処分と右許可にかかる工事費分担金を甲種の者として納入すべきか、乙種の者として納入すべきかの決定は、全く別個の処分であるというべきである。よって、甲種、乙種の決定の瑕疵を理由に本件許可処分の違法を云々することは許されない。

二  以上のとおり、本件許可処分は、住民訴訟の対象とならないものであるから、本件訴えは不適法である。よって、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水悠爾 裁判官 田中由子 裁判官 大久保正道)

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